2025/04/16 16:32
(更新:2025.4.25)
ネットショップ向実庵店主
舩生好幸
お待たせしており恐縮です。
2025年3月に調達しました新しい黒ハーフC60バルクカセットについて、確認結果に基づくインプレッションなどをレポートいたします。

(画像:今回取り上げる黒ハーフカセットと色違いの白ハーフカセット。白ハーフにつきましては後日ご案内いたします。)
〇SV-C60, Acoustic-C60,等の後継製品に使用するバルクカセットテープ
この黒ハーフC60バルクカセットは、SV-C60、Acoustic-C60等に使用しました先代=2世代目の黒ハーフC60バルクカセット(以下、第2世代黒ハーフ)の後継製品に使用するために調達しました。

(第3世代C60黒ハーフカセットを採用した製品サンプル6点)
〇テスト録音より
・今回もTEAC V-6030SとV-1050を使ってテスト録音を行いました。
1)管弦楽曲の録音と試聴
・まず、カセットテープにはハードルの高い大編成の器楽作品を、手持ちでは上位機種であるカセットデッキ・TEAC V-6030Sで録音してみます。
・デッキ:TEAC V-6030S
・モニターヘッドフォン:オーディオテクニカ ATH-A2000X
・製品の性能を十分引き出すため、録音前にキャリブレーションを行います。
(キャリブレーション結果)
・バイアス:L:8時半(-14)・R:8時半(-14)
・レベル=入力感度:L:1時・R:1時
※「何時何分」は、バイアスと入力感度の補正ダイヤル位置を時計の文字盤に見立てた表現です。(筆者の目測。)
・デッキのプリセット値=±0の位置で補正なしは「0時」。
・マイナス側に補正した場合の最大値は「7時」。
・プラス側に補正した場合の最大値は「5時」です。

・キャリブレーション結果は個体及び実施の都度、微妙に変化しますが、本製品では以下の結果となることが多いです。
・バイアスの補正量:8時から9時の間
・入力感度補正:1時前後
・V-6030Sでは後述のV-1050の録音結果と比較して、バイアスの補正値が浅い方向にやや大きい印象でした。
・入力感度の補正は比較的少なめで、ノーマルテープとして標準的な印象です。
*テスト録音
・音源:管弦楽曲:ホルスト/組曲「惑星」より、天王星、火星、木星(小澤征爾指揮ボストン交響楽団、CD音源)
・ノイズリダクション:オフ
・録音レベル:-10dB(=デッキの録音レベルダイヤルの目盛り・目測)
・再生時ピークレベル:+5dB(=デッキのピークレベル表示機能を読み取り)

・「天王星」は冒頭に金管セクションの強奏があり、また曲全般に強奏が続くため、どの程度の大入力に耐えられるテープであるか確かめるために録音しています。
・最初、レベルを半目盛り高い-9.5dBでも録音しましたが、大音量の場面で少し心配になり、若干下げて-10dBで録音しました。半目盛り下げてもデッキに表示されるピーク値は+5dBと変わりませんでした。
・以降の「火星」「木星」も録音レベルは-10dBで録音し、表示されるピーク値も2曲とも+5dBでした。
・音源にもよると思いますが、録音レベルは+5dBを超えない範囲に収めるとよいようです。
・V-6030Sでは正確にキャリブレーションできるため、テープの特性が低音域から高音域までフラットになり、情報量の多い管弦楽曲もCD音源のニュアンスそのまま録音できる印象が強いです。従来の第2世代黒ハーフと同様な録音ができる印象です。
・また、V-6030Sのデュアルキャプスタン構成の走行系もあって、走行安定性も十分あると感じられました。
・ヒスノイズレベルをテープ冒頭の無録音部分で確認すると、-40dBのインジケーターが1,2秒に1回点灯する程度です。従来の第2世代黒ハーフや、マクセルURやRTM製品とほぼ同程度で、現在の標準レベルといえると思います。
2)ポピュラー音楽の録音と試聴
・続いては相対的にベーシックなグレードのデッキで、ヴォーカルを中心とするポピュラー音楽を録音しました。
・デッキ:TEAC V-1050
・モニターヘッドフォン:オーディオテクニカ ATH-A2000X
*バイアス値の微調整
・TEAC V-1050ではバイアスの微調整のみ可能です。
・初めにプリセット値(±0)で録音したところ、下記のテスト音源は高音成分が多いこともあって、若干過剰に感じられるくらい高音域が伸びやかな印象でした。もう少し落ち着いた音色が好ましく思い、バイアスを「1時」=+1へ、やや深く補正して録音しました。
*テスト録音
・音源:ボビー・コールドウェル「HEART OF MINE」(CD)より1~5&9曲目
ヴォーカル中心、かつ色彩的な演奏で録音の鮮度も高い音源です。

・ノイズリダクション:オフ
・録音レベル:4+1/3位(=デッキの録音レベルダイヤルの目盛り)
・再生時ピークレベル:+3dB位(目測)
・V-1050では、V-6030Sよりもカセットの素の状態が明確に出る印象です。
・音質的には高音域まで伸びやかな音質の傾向が、第2世代黒ハーフ以上に明確な印象です。
また、第2世代黒ハーフよりも音色に繊細さが増すようにも感じます。
・録音レベル的には、もう少し高くてもいいくらい。まだ余裕がある印象でした。
・無音部分でのヒスノイズの印象:V-6030Sと同様、1-2秒に1回ほど、-40dBインジケーターが点灯する程度です。現行ノーマルテープで標準的なレベルと思われるレベルです。
〇音の印象・まとめ
・供給元のお話から、2024年10月に当店でも少量販売した「C46ノーマルポジション」と同じ磁気テープを使用する製品のようです。
・ただ、磁気テープの製造ロットの違いか、V-6030Sのキャリブレーション結果からみえた特性からは少し違う印象も受けました。キャリブレーション結果及び再生音の印象で一番近いのは、2022年にこれも少量販売した米国NAC製品「Ferro Master 256」のように思われました。

(画像 :米国National Audio Company製品・Ferro Master 256)
・いずれにせよ高音域まで伸びやかで、低音域の支えもしっかり出る音質ですので、ポピュラー音楽をはじめ、様々なジャンルの音楽録音でご利用いただけると思います。
〇ドロップアウト(音抜け)等の現象と対策
実は、製品のリリースが遅れてしまっている理由はここにありました。
V-1050で、ヘッドフォンで再生音を確認していると、
・瞬間的な音抜け(ドロップアウト)が感じられる
・高音域がカスレたり、ささくれたように荒れて録音される
・走行中、テープが所々でスリップするような、瞬間的に「息継ぎ」しているように録音される
といった現象が発生しました。
いろいろ条件を変えて確認したところ、結局はエイジング=慣らし走行が不足していると発生する現象でした。
V-6030Sのようにデュアルキャプスタン構成で、ヘッドの前後でテンションをかけることのできるデッキであれば上記の現象は出にくいです。しかしV-1050のようなシングルキャプスタン構成のレコーダーでは、エイジングとして早送り・巻き戻しを1往復行うだけでは不足する場合もあるようです。
その場合は再生モードでテープをA面からB面へ1往復程度走行させ、そのあとで録音するとドロップアウトや高音域のカスレ感などは発生せず、安定した録音になりました。
※お手数ですが、このバルクカセットを採用する製品では、録音に際しては少し時間をとっていただき、慣らし走行を済ませてから録音に供していただくことをお勧めします。
(このエイジングの実施に関しては別ブログにまとめましたので、そちらもご参照ください。)
〇価格につきまして
もう一つ、悩ましいのは価格設定です。
ここ7~8年の間に、私共が調達する業務用バルクカセットの単価はざっと4倍超にも上昇しております。
従来の国内メーカー様の撤退、新型コロナ禍やウクライナ侵攻等に端を発する世界的な物価高、等が背景にあります。
製品をなるべくお手軽な価格でご提供したいのですが、
私共のような零細業者では、今回ご提供を予定するC60カセットは、従来の第2世代黒ハーフ製品ですとC80やC90と同水準の価格を設定しないと継続供給できない状況であることを、恐縮ですがご理解いただきたいと存じます。
〇お試し版に代えて:HIDISC-C60カセットもご参考にどうぞ
上記の通り、第3世代C60黒ハーフカセットに基づく製品は、従来よりも高価格となる予定です。
「うちのデッキに合うのかどうか、予め確認したい」というご要望に、なるべく低コストで対策できないか、と考えていたところ、2024年より国内生産されている磁気研究所のカセットテープを知りました。
「一般用」とありますが、実質的に音楽用のカセットテープです。

(画像:HIDISC 一般用カセットテープ ノーマルポジション 60分・HD-60CT1J-G)
当店にて確認したところ、磁気テープやハーフの外観も、V-6030Sによるキャリブレーション結果や、V-1050を含めたテスト録音からも、音質や、上記のような慣らし走行の要否なども含めてほぼ同様の印象を受ける製品でした。
個体差、或いは製造ロットによる微妙な違い等あると思いますが、当店の新しいC60黒ハーフカセット製品の雰囲気を事前に確認するには活用できる製品と思われます。
量販店などでも比較的安価に購入できますし、当店でも販売いたします。
当店オリジナルデザイン製品に先立ってご購入いただき、録音機器との相性や、特性の確認などにご利用いただければ、と存じます。
※それぞれの製品の商品ページは順次公開いたします。もう少々お待ちください。