2026/09/28 10:52
2026.9.28
向実庵店主 舩生好幸
ここ数年、往年の、あるカセットテープを入手したいと思っていました。
ご存じの方も多い、TDKのADです。

(上記画像:TDK AD-C60・1990年ごろのバージョン)
十代半ばだった1979年の春、リリースされて間もない第2世代のAD-C46でFM放送を録音したのが初利用でした。
以来第3世代(1981年)、第4世代(1984年)と、安価なのに音楽録音に十分な性能を持つADは、FM放送の録音(当時のFMは、最新アルバムのほぼ全曲紹介や、内外アーティストのコンサート実況録音なども数多く放送されました)やアナログレコードのコピーなど、当時私の一番多く利用したカセットテープでした。
その後、社会人になるとCDを聴く機会が増えてFM放送を聴く・録る頻度は激減。カセットテープも、各メーカーから多数リリースされるようになった安価なハイポジションを購入することが多くなり、ADを使う機会がなくなっていました。
そのような次第で、35年~40年近く、ADをまじめに聴く機会がありませんでした。
近年改めてネット上の情報を見ますとADは、音質の良さもさることながら、低ノイズである旨も紹介されており、UR等に代表される現行のノーマルテープと比較してその静粛性はどの程度違うものだろうか、と、気になっていました。
ちなみに、10代のころ利用したAD(を含めたカセットテープ)は、実家に放置するうち片づけられて行方不明となり、手許にはFM放送を録音した第2世代の90分タイプが1巻だけしかありません。

(上の画像:その第2世代ADはアコースティックⅡのデザイン検討の際に活用しました。)
もう少し新しい世代のADを手に入れて、今あるデッキで録音して試してみたい、そう思っていました。

(上記画像:今回テストに使用した個体。開封ずみですがパッケージもご紹介)
レコーダーは手許では上位機種であるTEACのV-6030Sを使います。
製品の素の状態を確認したいのでノイズリダクションはオフです。
まずキャリブレーションを取りますと、バイアスも入力感度も±0。
マニュアルに記載はありませんが、どうやらADはこのデッキのリファレンステープの様子。
録音する音源は、CD-Rにまとめた、大編成器楽曲の小品集=吹奏楽コンクールの課題曲の個人的なセレクションです。

(上記画像:今回のテストに使用した音源。今では懐かしい部類の曲目。よく見るとCD-RもTDKです。)
〇想像以上にプレミアムな製品と実感できるカセットテープ=AD
録音を聴くと音質は申し分ありません。音源(デジタル音源)のニュアンスをそのまま録音できる印象です。さすがは「ミュージックリファレンス」(1981年リリースされた第3世代ADのキャッチコピー)あるいは「CD対応」を謳うだけのことはあります。
30年以上も前の製品ですが、ドロップアウトもなく安定感も十分です。
MOLも広く、デッキのピークメーターでは大音量の場面で+8dBでも歪の感じられない再生音でした。
NRオフでもヒスノイズは静粛。いつもの通りテープの冒頭部分など無音部分で確認しますが-40dBのLEDが点灯しません。これはハイポジション並みです。
実際はハイポジションよりは若干ヒスノイズは大きいのでしょうが、現行製品のノーマルテープよりももう一段静か。ノーマルテープとしての静粛性は非常に高い部類だと思います。
改めてADの万能ぶり、行き届いた製品であることを確認できました。
今もこのような製品が生産を継続していてくれたら、
・ハイポジションテープを求めるユーザーにも、代替としてお勧めできる余地がありそう。
・国内のカセットテープオユーザーももっと多く生き残って、或いは2010年代以降のカセットテープリバイバルのトレンドから現役復帰してくれるかもしれない。
・ひいては、Hi-Fiクラスのカセットデッキを作り続けるオーディオメーカーも、もっと残ったのではないか?
などと妄想が広がりました。
〇推察「下から2番目」=「元からLHクラス」の音楽専用カセットが生き残れなかった理由
カセットテープで、現在も続くマクセルのURのほか、2010年以降まで、比較的長く生き残っていたのはソニーのHF(マクセルからのOEMも含めて)、TDKのAE(イメーションへの事業譲渡後も含めて)など、「元々はLNクラス」=一般録音用からLHクラスに進化した製品だった記憶があります。
これらの製品は各メーカーの製品ラインナップ中最も安価で、数も多く売れたと思いますが、相対的に製造コストが低く、利用者からの見た目以上に利益が確保しやすく、販売数量が減少していく中でも生産や販売が比較的続けやすかった側面もあったのではないか、と想像します。
一方、TDKのAD/AD1やソニーのBHF/HF-S、マクセルのUD/UD1のような「元からLHクラス」の製品は、昭和の時代から「音楽専用カセットの入門編」として各社が激しい競争を繰り広げた歴史がありました。
より高いグレードの製品とあまり変わらない高性能な磁性体や、精度や剛性が高くデザインにも優れるカセットハーフなどを投入しつつ、企業努力の末に「下から2番目」の手ごろな価格での製品化にこぎつけ、メーカー間のシェア競争で優位に立とうとしたものと思われます。
そのため、上記「元々はLNクラス」に較べて製造コストは格段にかさむ反面、価格はやや高い程度に据え置き。これは利用者が考える以上に利益の少ない製品だったのではないでしょうか。
つまり、AD/AD1やBHF/HF-S、UD/UD1のような「下から2番目のグレード」のカセットテープの実態は、利用者の認識以上にハイスペックかつハイグレードな製品でありながら、マーケティング戦略などの理由で価格及び利益率は低く抑えられ、大量生産・大量販売が成立しなければ維持できない商品だったのだろう。そのように想像しています。

(上記画像:フラッシュサーフェスフォルム、変調ノイズを低減させるHP-ARメカ採用のオリジナルハーフ)

(上記画像:均一なヘッドタッチを追求するデュアルスプリングパッドを採用。もちろん防磁版も装備)
〇今、もしもADが復刻できるなら
もしも今、どこかの企業がTDKのADと同じスペックのカセットテープを復刻して生産・販売できるなら、その価格は1500円~1800円など、RTM Type Oneと同様なプレミアムなカセットテープになるのではないか、と想像します。
1980年代~90年代のような薄利多売のビジネスモデルは成り立ちにくい中、十分なスペックと品質を確保するためには、単価は上昇せざるを得ないと思われるからです。
無論、ユーザーとしては昭和や平成はじめの頃のように、ADのC60タイプが300円台~500円程度で購入できる方がありがたいです。
ですが、このような利用者の価格への感覚がメーカーにカセットテープ事業への再参入や、意欲的な製品の再投入などをあきらめさせる原因となっているとしたら、ここは少し考えを改める必要性がありはしないか、とも思いますがいかがでしょう。
先日のレコーダーのブログと同様ですが、メーカー様にはまずは高額でもよいので高音質&低ノイズ&高品質の音楽専用として申し分のないカセットテープを開発・リリースしていただき、技術的な足場と資金力を高め、十分な人気が高まれば、より普及価格帯の製品もリリース、そのようなストーリーが令和の今も描けないだろうか、と妄想する次第です。
〇ADのような高性能カセットテープの復活・再びの隆盛を祈っています
ADの良さを再確認できたことを踏まえ、このような万能の音楽用カセットテープ(さらに上位のAD-XやAR、ハイポジションもメタルポジションも大歓迎です)の復活を、再びの隆盛を祈りたいところです。
マクセルブランド(現在は電響社)が事業を継続していることを考えれば、ADのライバル・UD/UDⅠがレギュラー製品として復活したり、ハイC/Pだったハイポジション・UDⅡのような製品が再登場してくれれば、カセットテープオーディオの世界も改めて勢いづくことでしょう。
そのような近未来を妄想と共に期待したいと思います。

*関連ブログ:
(ネットショップ向実庵・代表)
(以下、向実庵からのご案内です。)
〇当店オリジナルデザインのカセットテープを販売中。詳細はホームページへどうぞ。

(上記画像:C90・オリジナルデザインカセット・アソート)

(上記画像:<ピースフル・黒ハーフ版>平和祈願のカセットテープ)