2020/07/31 14:41

今回は、東芝(東芝エルイートレーディング)製CDラジカセ・CDラジオのうちAurexブランドの機種のいくつかについて、体験と印象などを書いてみたいと思います。


〇TY-AH1000
2016年3月に、復活したAurex(オーレックス)ブランドから登場したTY-AH1000。
端的にはUSBメモリーとSDカードの録再にも対応するCDラジオですが、96kHz/24bitまでのハイレゾ音源(WAV・FLAC)の再生が可能であるところが画期的でした。

当時のカタログを見ると、この製品について「ハイレゾ再生に対応する新サウンドシステムを搭載」とあります。
スピーカーはウーファとツィータの2Way構成で、それぞれを別のデジタルアンプで駆動。ウーファ用が15W+15W、ツィータ用が10W+10W、合計50Wの最大出力を有することがウリの一つでした。

この年の7月30日発行のオーディオ誌「ステレオ時代」第7巻(ネコ・パブリッシング刊)でもTY-AH1000の主要な関係者の製品開発にまつわるインタビュー記事が掲載されました。それを読んだ筆者は大いに期待の気持ちを高めたものでした。

そしてこの年の暮れに、ようやく筆者も購入しました。最初に聴いたのは手持ちのCD音源でしたが、スピーカーからは、通常のCDラジオやCDラジカセとは次元が違う音、オーディオコンポのような音が出てきて驚きました。

聴感上の周波数レンジが広いのは当然として、演奏のリアリティがとても高いと感じました。
録音の良い音源で大編成の管弦楽を聴くと、弦楽器や打楽器の音の立ち上がりがリアルで、目の前で演奏しているような印象を受けます。
通常のCDラジオやCDラジカセでは不得意なことの多い管弦楽やジャズなどの器楽曲も、余裕をもって再生できる印象です。

TY-AH1000の寸法は幅40cm・奥行21cm弱・高さ14cm弱。特別大きくはない筐体からこれだけリアルな音が出るのはすごいことだな、と感じました。

一方、弱点もあります。WAVやFLAC形式で96kHz/24bitまでのハイレゾ音源の再生ができるのに、USBメモリーとSDカードへ録音するとビットレート192kHzのMP3フォーマットだけ、というのは、著作権法上の配慮でしょうが見劣りする印象です。
また、データ用CD-Rで自作した音楽CDをかけると、読み取りエラーが時折発生しました。一般のプレスCDなら問題はないので、一部のCD-R媒体と相性が悪い程度かもしれませんが、少々残念なところでした。

とはいえ、その再生音の良さは画期的と言っていい水準でしたので、この製品に搭載されたアンプやスピーカーを使って、さらなる商品展開―高品位なCDラジカセが登場したら素晴らしい、と期待した記憶があります。

〇TY-AK1
Aurexブランドの第2弾として、2018年の3月に、TY-AH1(CDラジオ)とともにTY-AK1(CDラジカセ)が登場しました。
両製品ともハイレゾ音源対応で、192kHz/24bitまでのハイレゾ音源(WAV・FLAC)の再生が可能。2Wayスピーカー+合計40Wのデジタルアンプを搭載。さらにハイレゾ以外の音源(CD、Mp3、ラジオ、カセット等)をハイレゾ相当の音質にするアップコンバート機能も搭載と、カタログ的に相当な意欲作です。
カセット部を持つTY-AK1についてはさらに、TY-CDX9に搭載されたハイポジションテープ再生のセレクターもあります。TY-AK1の実売価格はTY-AH1000の時とほぼ同様の2.8万円程度。この年の夏ごろに購入して聴いてみました。(下の写真:TY-AK1)

結果は・・スピーカーからの再生音は、周波数レンジの広さも感じられ、原音を忠実に再現しようとする意図も感じられ、悪くないのです。しかし、その音にはTY-AH1000ほどの臨場感やリアリティが感じられません。ウーファはTY-AH1000が8cmのところTY-AK1は6.4cm。それで音質が落ちたとは思いにくいのですが、結果的に音質は見劣りがします。

一方CD部は、TY-AH1000よりCD-R媒体の「好き嫌い」が改善しており前進ですが、上記のとおり再生音の魅力が減少していました。

カセットテープをかけてみると、なによりもフラッター系の回転ムラが目立つのが問題です。カセット部の走行安定性は、価格が1万円以上安価なTY-CDX9を上回る印象はなく、さらに旧世代であるTY-CDK8のレベルに逆戻りの印象です。
ヴォーカル中心のポピュラー音楽ならあまり気になりませんが、管弦楽やジャズ・フュージョンなど器楽曲ではフラッターが気になってしまいます。
ここでカセットテープにアップコンバート機能を試してみると、ヴォーカルの輪郭がくっきりする印象で、一定の効果は感じられます。しかし、カセットテープ部はそれ以前に走行系の安定性を確保すべきであり、それが不十分ではアップコンバート機能が十分活かせません。

結論としてTY-AK1は、TY-AH1000で感じたような満足度は感じることができませんでした。

〇筆者の勝手な想像など
TY-AH1000は高性能を実現した分、利幅は少なく、売り上げが伸びても利益が出にくかったのではないかと想像します。画期的な製品の割には2年ほどで生産終了してしまいました。東芝のラジカセには5年ほど継続販売されるロングセラーモデルもあります。TY-AH1000が比較的短期間しか販売されなかったのは、残念ながら業績面で何等かの支障があったことを示しているのではないでしょうか。

第2弾のTY-AK1(およびTY-AH1)は、このTY-AH1000にカセット部を組み込む方向で企画されたのではなく、先行発売したCDラジカセ・TY-CDX9を土台に、TY-AH1000に類似した、けれどもコスト面の制約から一段下がるデジタルアンプ部やスピーカー構成等を取り入れた製品、と考えられるのでは、と想像しています。

カタログ的に、TY-AH1000譲りのハイレゾ対応に、アップコンバート機能も加えて、と見栄えはいいです。そしておそらくは、TY-AH1000よりもコストダウンを徹底して、より多く利益が期待できる製品を目指したものと思われますが、結果的にはアンプ部やスピーカー部やカセット部などに必要十分なコストをかけられず、TY-AH1000が達成したレベルの音質は実現できず、決定的に悪くはないけれど、どこか中途半端な製品にとどまってしまった、と想像します。

その後、オーレックスブランドでは、CDラジオのTY-ANX1及びTY-AN1が登場しました。
店頭で試聴したところでは、相応に音の良い製品と感じましたが、TY-AH1000で感じたようなインパクトは感じられません。
音質が大事なのか、語学学習に便利なことやコンパクトさが大事なのか・・製品の方向性に一考の余地はないでしょうか。

せっかく復活させたAurexブランド。Aurex=Audio+Rex=”オーディオの王様”にふさわしい道を歩んでいただきたいです。

この次に登場するAurex製品はTY-AH1000のような輝きを取り戻していただきたいし、できることなら20世紀終わりごろ、東芝本体がAurexのオーディオ製品を展開していた時代の輝きを取り戻していただきたい。そう願っています。