2020/12/16 11:42

2020年の春にパッケージが新しくなったカセットテープ・マクセルUR

遅まきながら、向実庵でも新旧両方のURを聴き較べて、どのような違いがあるのかテストしてみました。

 (上画像:新版UR(左)と旧版UR)


〇マクセルURについて

マクセルURは、現在、国内で販売される数少ないメーカー製カセットテープです。

ピュアクリスタル磁性体採用による高域感度の高さや高域MOLの広さを実現。リーズナブルな価格を維持しつつ、音楽用カセットテープとしての実力にも磨きをかけた製品です。

 

〇かつてのURを振り返る

筆者は1985年に発売された初代URも、少しだけですが体験しています。 (下:初代URのイメージ)


FM週刊誌の新製品紹介記事で、UL後継として登場したURはベーシックグレードながら音質が良く、高いコストパフォーマンス、と紹介されていました。

さっそく買ってきて、FMの音楽番組を録音してみました。ちなみに当時のベーシックグレードは他にもDTDK)やHF(ソニー)、アクシア、デンオン、など多数あり、46分の定価が350円位でした。

 一つ上のグレードであるADTDK)、HF-S(ソニー)等と比較すると高音域が若干丸くなるかな? という印象でしたが、それでも音源のニュアンスはほぼ保たれ、気楽にFM放送を録音するならこれでも十分。評判通りコストパフォーマンスの高い製品が出た、と実感しました。

 再びURを手にするのは約30年の時間が経過した2015年以降です。 (下:2010年代のURイメージ)


改めて使ってみたURの印象は、きちんとカセットデッキで録音すれば、高音域まで伸びやかで、デジタル音源のニュアンスを維持しつつ録音できること。かつてのUD(UDⅠ)やAD、HF-S等のレベルにほぼ達しているのでは、と思わせる音質です。そのような製品が46分なら200円前後で販売されていて、改めてコストパフォーマンスの高さを実感しました。


〇新旧URに録音して比較する  

さて、ここからは新旧のURに録音をして比較した内容をご紹介します。

手持ちのデッキ・TEACV-6030Sで新旧のURに録音して、聴き較べを行いました。モニターに使用するのはヘッドフォンで、オーディオテクニカのATH-A2000X。長く使っているハイレゾ対応の製品です。

 

〇比較1:バイアス+レベルの微調整を行って録再

ノイズリダクションは使用せず、またカセットの性能を十分に引き出せるよう、バイアス値とレベル値を微調整するキャリブレーションを行ってから録音します。

*比較用音源:

 音作りの考え方が異なる、ポピュラー系作品とクラシック系作品の両方を録音しました。

1)高中正義「FingerDancin'」より「SPACE WAGON」:

ギタリスト高中正義の45回転LP。正直なところ思い付きの選択ですが、通常の33回転LPよりも音質が良く出力も高い良盤で、演奏も良い曲がそろっています。(ここから作成したCDRから録音します。)


 

2)モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番より第3楽章(V.アシュケナージ独奏・指揮/フィルハーモニア管弦楽団.

 演奏レベル高く、録音も各楽器のニュアンスがわかるバランスの良い内容なので選びました。



〇録音前キャリブレーションの違い

キャリブレーションを行うと、新旧URでダイヤルの位置が結構違いました。(画像がやや暗くて恐縮です。)

・旧URBIAS値・11時(-4):LEVEL2時(+8


旧版は、BIAS値の調整幅は相対的に少なめで、むしろLEVEL値を上げて感度を補う必要があります。

 

・新URBIAS値・9時(-12):LEVEL12時(+-0


新版は、BIAS値をより多めに浅くしましたが、LEVEL値は調整不要で感度は十分のようです。

〇入力レベル設定について

録音の際、新旧URで入力レベルもそろえています。いずれも目盛りー9.5dB付近で録音しました。


〇再生音の比較

再生してみます。 当然ですが、キャリブレーションを行うと新旧URで大きな差は生じにくくなりました。

再生出力で目立った差はありません。「SPACE WAGON」再生時のピーク値は、新旧ともに+5dBでした。(画像左:旧版UR、右:新版UR)


周波数特性も、キャリブレーションを行うと高音域まで伸びてフラットになり、新旧URで音質に大きな差は生じにくいです。

しかし、何回か聴き直していると、新旧URで若干違いが感じられるようになります。

URの方が、再生音が少し柔らかい、中低音域にポイントがある印象です。

 ・「SPACE WAGON」では、エレキベースの存在感や躍動感が高まり、音色に丸みが増しているように感じます。女性コーラスやストリングス、ホーンセクションなども、うまく言えませんが、少しだけ印象深く聴こえます。

 ・モーツァルトでは、独奏ピアノの響きに余裕が増す印象です。木管楽器の響きも相対的に少し柔らかく、チェロやコントラバスなど低音域の響きも余韻が少し多い感じがします。


 〇比較2:無調整で録音・再生

同じカセットデッキV-6030Sを用いて、今度はバイアス値とレベルの微調整はオフで、テープの性質そのままに新旧URの比較を行ってみました。(なお、今回もノイズリダクションは使用しません。)

なお、このデッキにはドルビーHX PROが搭載され、キャリブレーションを行わない場合もテープの高音域特性を改善して録音します。この機能は解除できないので、そのまま録音している点をご了承ください。

*比較用音源:

・渡辺貞夫「Sweet Deal」より「Passing By

このアルバムは演奏レベルも音の鮮度も高いこと、そして「Passing By」は終始鳴り続けるハイハットシンバル類をすっきり録音できることを比較のポイントとして選びました。

 録音レベルは今回もやや高め、デッキの目盛りー9.5dB付近に固定して新旧それぞれ録音しました。


 〇印象:

新旧の差が、キャリブレーション時よりはっきり出る印象でした。


 〇旧版UR

・旧版URは、低音域から高音域まで、比較的フラットに音が出ている印象です。

デジタル音源を忠実に録音し再生しようという意図が感じられるバランスといえましょうか。新版との比較では相対的に、「Passing By」のハイハットシンバルが幾分強調され、若干ハイ上がり傾向が感じられました。

・再生時出力レベルのピークは+6dB。後述する新URに比べると相対的に低い値でした。


 ・また無音部分の再生中、レベルメーターのー40dBセグメントの点灯具合を見ていると、微妙ですが若干多く点滅しており、ヒスノイズのレベルは旧版の方が少し高い状況でした。

 

〇新版UR

・新版URは、旧版に較べて低音の出方がより積極的と感じます。「Passing By」のエレキベースやバスドラムなど低音域の押し出しが強まる傾向が、再生出力の向上と相まって感じられました。

 一方、高音域が弱まって音楽の輝きが薄れたわけではありません。十分に鳴る低音の上に中音域、高音域が重なって構成される、自然で安心感のある音作りの傾向が強まったと感じられます。

「カセットテープはアナログメディアだから、アナログらしいバランスで再生しよう」、そんな原点回帰ともとれる方向性が打ち出された印象です。

・そして、再生時出力レベルのピークは+8dB。相対的に高い値でした。


・ヒスノイズはー40dBセグメントの点灯頻度が旧版より若干下がり、ヒスノイズは相対的に少なめになっています。  ただし聴感上、ノイズが目立って少ない、というほどの差ではありませんでした。 

URの数少ない弱点の一つは、ヒスノイズに高音域の成分が多く目立ちやすいことだと思いますが、これは新版でも大きく変化することはなかったです。ですがテープの感度が上がったので、相対的にSN比は改善されていると言えそうです。

 

〇まとめ

20203月、URはパッケージデザインだけでなく、音質面でもアップデートが施されていると感じました。


新旧のURを、条件をそろえて聴き較べると、新しいURは再生出力の向上や中低音域の厚みの向上が認められます。従来からのメリットである高音域のゆとりは維持しつつ、アナログメディアらしい音の暖かみや深みが向上した印象です。

1段階とはいかなくとも、0.5段階くらい高級感が増している、そう言えるのではないかと思います。(販売価格も上がりましたので、相応に高級感が増した、といえるかもしれません。)


但し、カセットテープの印象や使用感は、使用するオーディオ機器や対象とする音源などによって大きく変わります。

旧版URの音質の良さもかなりの水準だと思います。違うデッキで録音した場合、違うヘッドフォンで聴いた場合、違う音源を録音&再生した場合など、より明確にデジタル対応を打ち出している旧版の方が、音質がすっきりとして好ましい、という結果もありそうです。新旧URで明確に違いを感じられない場合もありえます。

上記の結果は一定の条件下で得られた参考情報、そのようにご理解いただくのが良いかもしれない、と考えております。


ただ、惜しむらくは新版URに分数のバリエーションが4種類(10分、20分、60分、90分)に整理されてしまったこと。

現在の“1強”状態を考えれば、逆に46分、52分、74分、80分、100分など、再度タイムラインナップを増やし、カセットテープファンを改めて開拓し直す、そして独占する、そのような意気込みで事業に取り組んでいただいてもよいのでは? と考えるのは変でしょうか。

いずれにしても、URの今後の展開には注目し続けたいと考えております。

そして、マクセルのURと一緒に、当店オリジナルデザインのカセットテープシリーズでも録音・再生を楽しんでいただければ、と思います。






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